November.25.2022



シャツと花束


一年を通じて日々の生活に欠かせないシャツ。
日常を豊かにする普遍的なシャツは、同じく日常を豊かにする花束に通じると私たちは考えます。そこでさまざまなフラワーショップにお邪魔し、『Armor Lux』のために花束を作っていただくとともに、シャツと花のある生活の魅力を探っていきます。



Vol.02 The Little Shop of Flowers(東京・明治神宮前)



明治神宮前の路地裏、木々が茂る一軒家の軒先に「The Little Shop of Flowers」はあります。さまざまなニュアンスの花が並ぶ姿に、訪れた人々の心は躍ることでしょう。オーナーの壱岐ゆかりさんはアメリカの大学を卒業後、インテリアショップ「イデー」を経て、ファッションブランドを扱うPR会社に転職。その後、自身のPRチーム「Guthrie(ガスリー)」を設立しました。 「私のまわりには、家具が作れたり、設計ができたり、料理が作れたり、文章が書けたり、……自分の手でなにかを作れたり発信できる仲間たちに恵まれた環境でした。私は彼らの考え方、人間性、ものを作り上げていく過程が大好きで、人の思いを伝える役割にあったんです。面白い一方で、彼らとのPR契約が終わると友達関係まで終わってしまうような不安もあって。私にはものを作りだす力も一緒にいたいと思ってもらえる人間性もないような、漠然とした不安があったんですね」 そんな壱岐さんの転機となったのは出張先のニューヨーク。ジーンズショップの一角に小さな花屋を見つけ、気張らぬ感じでジーンズを引き立てる姿にこれまでやってきた自身の仕事を重ねます。裏方として人々を引き立てる花屋という未来を見出し、半年後にはお店をオープンさせました。




友人から、「私の趣味嗜好や性格から『かわいらしいお花屋さん』は不似合いと言われて」と笑う壱岐さん。 「私自身もきれいで美しくかわいらしい花より、どこが毒々しくってただ”かっこいい"雰囲気のお花が当時は好きでした。もともと『リトル』という名を考えていましたが、イメージが広がる名がいいと仲間からアドバイスを受けて映画のタイトルをもじったんです」 店名の由来はアメリカのB級ホラー映画『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』。花屋で働く青年が食人植物に翻弄される物語で、「アメリカではよく知られる古典的な作品で、ホラーというよりはコメディのよう」だそう。勢いで始めたという花屋ですが、友人たちの依頼もあって徐々にオーダーも増えていきました。 「恥ずかしながら自分探しの一環で花屋を始めたようなもの。免許なく始められる職業ではあるけど、続けていくには経験やセンスが問われることになると店を始めてから気づいてしまったタイプ。感覚的に始めたので、あとから技術が身についた10年です。花にまつわる仕事にはアーティストとして表に立って個人で活躍するタイプと裏方的に携わりたいチームがいて、私はおそらく後者。開業から12年目を迎えましたが、私という個よりもチームとしての動きを強めたいと常に考えています。チームワークで花に寄り添うことは予想ができない動きで、発見も喜びもいい伝染効果があり楽しいです」






そんな壱岐さんに花束を依頼すると、まずはこれからの季節に登場する「銀世界」というユーカリを手に取りました。そして「銀世界」と同じように香りが高く、いま気に入って買い付けているという八重の百合が続きます。こちらは一般的な百合と異なり花びらが幾重にも重なる品種で、色を問わずに買い付けるそう。 「花を日常的に飾る人が増えたことで植物に詳しい人も増えましたよね。このユーカリや百合のように、香り立つ品種を楽しもうという人も出てきていいころではないでしょうか。今回のブーケはそこに季節特有のツルウメモドキを加えました。私はそのあたりの野原から採ってきたような雑草的な美しさのあるブーケが好きで、綺麗にまとまっていなくても魅力だと思っています。これを受け取った人が自分であしらうことで、見え方もだいぶ変わります。私は整っているしさというか、ちょっと歪みやズレの景色になる自然ぽさが好きなのかもしれません」






一般的に枯れていると認識される花は、ほとんどの生花店で販売することがありません。しかしそれを成熟した魅力ある50代の人間に置き換えてみてはどうだろうと、壱岐さんは問いかけます。 「私は冬枯れした植物に美しさを感じます。都市に美しい庭は多いけれど、枯れた庭があってもいいですよね。特にこれからの季節は植物が枯れているのが当たり前で、枯れて種ができるから春がやってくる。秋や冬に咲く花と秋や冬に枯れて美しくなる花でコンビネーションを作りたい。人間も赤ちゃんから老人までいて面白いわけで、そんな感覚を大事にしたいんです」 とはいえ壱岐さんの作る花束は鮮やかな色を纏います。「子どものころに500色の色鉛筆をねだって、それで絵を描くのが大好きでした。そのころかわ変わらずいまも色が好きなんです」と笑う壱岐さん。 「私は花の修行をせずに花屋になったこともあって、色の合わせ方はあくまで自己流。私のなかに組み合わせたら気持ちがいい色というものがあります。それは絵の具だと作れず、花を重ね合わせなければ作れない。それができたときに快感があります。自然の光が揺らぐことで色が変わるのも特別ですよね。もともと自然にあった色だからこそ、いろいろなものを引き立ててくれる存在だとも感じます」






そんな彼女が選んだシャツはグレーとオフホワイトのストライプ。「昨年は洋服の色に力をもらっていたけれど、今年は区分をリセットするベーシックな色使いが気分」だといいます。そしてやはり動きやすさから、ワイドフィットのゆったりしたシルエットを選びました。 「着飾る楽しさや美しさを求めた時期もありますが、花屋になって美しさの概念がずいぶんと変わりました。働く姿のかっこよさは時にボロボロなことも。それは花屋に限らず子育ても同じことだし、やはり女性なので美しくいたい時もあります。このシャツは作業しやすくて汚れても様になり、シルエットがジェンダーレスなのも心強いですね。私たちは廃棄する花を使って古い布や衣服を染め直すプログラムもやっているんですが、そんなときにもよさそう」 寒い季節だからこそ、枯れた姿をも楽しむ視点。壱岐さんの自然体の魅力が、植物の新しい楽しみ方まで教えてくれるようです。




【壱岐さん着用アイテム】
ボートネック ロングスリーブ【Wide fit】
¥17,050 (tax incl.)


The Little Shop of Flowers

住所:東京都渋谷区神宮前6-31-10
営業時間:12~19時
定休日:木
TEL:03-5778-3052
https://store.thelittleshopofflowers.jp
INSTAGRAM @thelittleshopofflowers


Text & Edit by Yoshinao Yamada
Photographs by Kohei Yamamoto






Vol.1 malta の記事はこちら

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